持續了千年歲月的和平時代已成昨日雲煙,這是被後代歷史學家稱做「黃昏時代」的揭幕期‧‧‧



【オルフェウスの精神】
ここは・・・

もしかして・・・
『新しい世界』の中・・・?

○○さんは
助かったんでしょうか・・・

世界はどうなったんでしょう・・・

といっても、
この中じゃ何も分からないか・・・

この声は・・・

いや・・・声じゃない・・・

○○さん、
この意識は君なんですか・・・?

○○さんの意識が
ぼくの心の中に流れ込んでる・・・

心がどんどん溶けて
混じり合っていく感じがする・・・

そうか・・・
これが『新しい世界』の力か・・・

確かに、こんな所にずっといたら
他人と自分との境界線なんて
なくなってしまいますね・・・

いや・・・それだけじゃない・・・

ぼく達とこの世界も
1つになりつつあるのか・・・

この世界・・・膨らんでる・・・

そうか、爆発する寸前なんですね・・・

ぼくはこの世界の誕生と消滅に
巻き込まれちゃったわけですか・・・

○○さん・・・

この世界の中では
言葉など必要ないようですが、
一応自分の口で言っておきます。

ありがとう・・・
心から感謝の言葉を捧げます。

復讐しか考えていなかったぼくに、

全てを遠ざけ、世界を諦めてたぼくに、

君は、からかう楽しさを
提供してくれた・・・

君のおかげで結構楽しかったです。
君は最高かつ最低の友人だ。

い、一体何が・・・?

膨張が止まった・・・
世界が・・・きしみ始めてる・・・

意識が・・・記憶が・・・
手のひらからこぼれ落ちていく・・・

そんな・・・
このまま全てのことを
忘れてしまうのか・・・?

い・・・嫌だ・・・
それだけは・・・嫌だ・・・

忘れたくない・・・

忘れたく・・・ない・・・

忘れたくない!!


1年後



【オイゲン】
あの光の爆発から
ちょうど1年か・・・

今思い返してみると
あれが本当にあったことなのか
怪しく思えてくるぜ。

神だの悪魔だの世界の破滅だの、
現実味がまるで感じられねえ。
まるで夢の中の出来事だ。

【毒術師サディーヤ】
でも、あれは夢ではありません・・・
バルデスさんと○○さんは
確かにこの町にいたのです。

【クムラン】
そして、彼らは命を賭して
この世界を救ってくれた・・・

【オイゲン】
本当にそうなのか・・・?

この疑問が日に日に強くなる。
本当にこの世界は救われたのか?

確かに、精神世界と物質世界の融合を
阻止することは出来たし、
魔物も地上から姿を消した。
だが、代わりに世界中戦争だらけだ。

この1年、この町に届くのは
耳を疑うような陰惨なニュースばかり。

そりゃ、あの光の爆発が起こる前も
平和には程遠い世の中だったが、
あの頃とは規模も残酷さも桁違いだ。

最近は、ランツからの手紙を
読むたびに情けなくなってくる。
人間ってのはここまで
馬鹿な生き物なのかってな。

こんな事は言いたくなかったが、
これなら『新しい世界』とやらの方が
まだ幾らかマシだったんじゃ
ねえかって思っちまう・・・

【クムラン】
それは・・・

【オイゲン】
クムラン、サディーヤ、
答えてくれ。

バルデスや○○達の
やったことは一体何だったんだ?
奴等のあの戦いは一体何だったんだ?

こんな世界を守るために
バルデスや○○達は
死んじまったのか?

【ファトゥム】
悩みながら、苦しみながら生きるより、
何も考えずに生きる道を
貴様は選ぶと言うのか?

【オイゲン】
ファトゥム・・・

【ファトゥム】
どんなにこの世界が堕ちようと、
そこに生きる1人1人の人間に

ほんの僅かでも
生きる意志と希望があれば、
それは価値ある世界だ。

時代のせいにするな。
他人のせいにするな。

今自分に出来ることだけを考えろ。
自分の目の前にあるものだけを考えろ。
そうすれば見えてくるものもある・・・

奴は・・・バルデスは、
そういう男ではなかったか?

【オイゲン】
手厳しいな・・・

【ファトゥム】
貴様が弱気になっただけだ。
バルデスに笑われるぞ。

それに、
○○が死んだと断定するのは
こいつに失礼ではないのか?

【オイゲン】
オルフェウス・・・

【クムラン】
ところて、遺跡の中は・・・

【ファトゥム】
何も見つからなかった。
瓦礫の山が続くばかりだ。

『新しい世界』の崩壊と共に
精神から具現化した
全ての建造物が力を失った。

俺は、その忌まわしい
『新しい世界』のおかげで

本来の魂と奴等が言うかりそめの魂、
そして肉体とが1つに
戻ることが出来たのだがな。

【毒術師サディーヤ】
地下世界は完全に
死んでしまったのでしょうか・・・

【クムラン】
ええ・・・

残念ですが、そう考えるのが
妥当なのかもしれません・・・

【オイゲン】
オルフェウス・・・
1年間も帰りを待ち続けたお前に
こんな事を言いたくはないが

いい加減○○のことは
諦めたらどうだ?

5回の噴火で、遺跡の中も
この町もボロボロだ。

この町の住人達も皆
山を下りて故郷に帰った。

お前達の仲間も、
一部の奴は最後まで○○を
待つってゴネたが、
お前以外は無理矢理帰らせたし、

俺達も次に天気が安定したら
山を下りるつもりだ。

それに、今度噴火がおこったら
確実にこの町は溶岩流に
飲みこまれるだろう。
山を下りるルートもどうなるか・・・

お前まで死んでどうする。
○○だって喜ばねえぞ。

【オルフェウス】
ご心配には及びません。
どうせ長くはない命ですから。

【オイゲン】
だが、たとえあと数年しか
生きられないにしても・・・

【オルフェウス】
いえ、
だからこそ待ちたいんですよ。

確かに、待ち人が男ってのは
ぼくの美的センスには
合いませんがね。

【オイゲン】
オルフェウス・・・

【オルフェウス】
大丈夫、彼は戻ってきますよ。
ゴキブリ並の生命力を
なめてもらっては困ります。


【オルフェウス】
とは言ってみたものの・・・

【ナーダ】
○○さんの事を
考えていらっしゃるのですか・・・?

【オルフェウス】
ナーダさん・・・

【ナーダ】
お会いした記憶はないのですが、
素敵な方なのでしょうね。

【オルフェウス】
いえいえ、とんでもない。

心優しいこのぼくを
こんなに待たせる下劣な男が
素敵な人間であるわけがありません。

あんな強欲で自分勝手な人間を
待ち続けるなんて・・・
ああ、なんて優しいぼく・・・

【ナーダ】
○○さんのこと、
本当に好きなのですね。

【オルフェウス】
何をおっしゃるんですか。
大嫌いですよ、
この世で1番嫌いな人間です。

でも、この世で1番
ぼくを楽しませてくれた
人間であるのも事実なんですけどね。

【ナーダ】
羨ましいです・・・

私はあなたの何倍も
生きてきたはずなのに、
友達をつくる機会さえ
ありませんでしたから。

【オルフェウス】
友達・・・か・・・

まさかこの町にきて
そんなものを作る羽目に
なるとはなぁ・・・

【ナーダ】
素晴らしい偶然ですね。

【オルフェウス】
そうなのかもしれませんね・・・

ぼくに残された時間の中で
再会出来るならば
言うことナシなんですが・・・

【ナーダ】
大丈夫、○○さんは
きっと戻ってきます。
あなたが信じている限り・・・

【オルフェウス】
ま、再会したからって
感動的な言葉を投げつける
つもりはありませんし、

何か特別なことをするつもりも
ないんですけどね。

【ナーダ】
どうでしょう・・・

○○さんが戻ってこられたら、
2人で一緒にお義姉さんのお墓に
お参りにいらしたら?

【オルフェウス】
で、彼を紹介するんですか?
『義姉さん、ぼくはこいつと
 つきあってるんだ』って・・・

その発想は悪寒を招くには有効ですが、
計劃の実現にはぼくの頑強な抵抗が
つきまとうでしょうね。

【ナーダ】
道中は○○さんに
荷物を持っていただくとか・・・

【オルフェウス】
それはいい考えですね。
考えておきますよ。

【ナーダ】
あなたは・・・




お久しぶり・・・




幾つもの国家、幾百もの言葉、
幾千もの民族を擁するこの世界は、

局地的な紛争こそなくなることはなかったものの
「平和」と呼ぶに値する時代を
千年以上も維持していた。

この仕組まれた「平和」は
人類にとってあまりにも長すぎた。
それは、人間の文明の進歩、
種としての進化を鈍くさせるのに充分であった。

アノイア暦5099年、
千年続いた穏やかな時代は
とうとう過去のものとなる。

時は、後世の歴史家から
「黄昏の時代」と呼ばれる一時代の幕開けである。

アスロイト王国とバイレステ共和国という
二大国の消滅は、

大国に組み入れられていた各民族の独立を促し、
人々の心に民族意識を芽生えさせた。

民族の対立は戦争をさらに苛烈なものにする。

12の国に塗り分けられていた世界地図の上には、
僅か4年の間に500を超える国の名が書き込まれ
その半数は1年にも満たないうちに消えていった。

イレニア島・・・
四方を海に囲まれたこの地も例外ではなかった。

時を『光の爆発』以前に戻そう・・・

島の北部を支配していた
バイレステ共和国の消滅による混乱も、

南部を支配していたイレニア王国による
全島の統一により、
比較的穏やかに収束に向かうかと思われていた。

だが、イレニア王国内部の権力闘争、
民衆の支配階層への反感、
島の経済を掌握していたバイレステ人社会の反発、
国粋主義者と移民との闘争、

親教皇派とイレニア教会との抗争が複雑に絡み合い
この小さな島国を舞台に
5つの国が争うこととなった。

戦争は激化の一途を辿っていった。

だが、混迷のイレニア島に1人の男が登場する。

人々からイレニウスと呼ばれたその男は、
たった2年で島の半分を版図におさめ、
世界で初めて貴族制を完全に否定した国を興す。

その男の本名は歴史書には記されていないが、
かつてはオルフェウスと
名乗っていたこともあるという。

そして、その傍らには
1人の戦士の姿があった・・・




光の爆発から5年後・・・





【オルフェウス】
開いてますよ、○○さん。

早いですね。あの砦、
もう落としちゃったんですか?

【毒術師サディーヤ】
お久しぶりですね、
オルフェウスさん。

【オルフェウス】
え・・・
サディーヤさん・・・ですか?

【毒術師サディーヤ】
ええ。

入ってもよろしいですか?

【オルフェウス】
ええ、もちろん。

4年ぶりですか・・・
でも全然変わってませんね。
相変わらずお美しい。

【毒術師サディーヤ】
あたなも変わりませんね。

【オルフェウス】
変わりましたよ。
南海の真珠といわれた
ぼくの美しい肌もほらこの通り・・・

【毒術師サディーヤ】
その軽口がですよ。

【オルフェウス】
これがなくなったら
ぼくじゃなくなる。

それに、この性格が
1番性に合ってるんですよ。

で、どうしてここに?
ひょっとして、ぼくの愛を・・・

【毒術師サディーヤ】
いえ、○○さんに
招かれたんです・・・

【オルフェウス】
あの間の抜けたブ男に?
サディーヤさんも趣味が
悪くなりましたね。

【毒術師サディーヤ】
違いますよ。
その・・・オルフェウスさんの・・・

【オルフェウス】
わかってますよ。
あのブ男はぼくの体を気遣って
あなたを招いたのでしょうね。

まったく、お節介な奴だ、
ブ男のクセに。

【毒術師サディーヤ】
お薬を幾つか用意してきました。
痛みを和らげる程度しか
出来ませんが・・・

【オルフェウス】
ありがとうございます。
でも別にいいですよ、
死ぬ覚悟は出来てますから。

それに、4・5年で死ぬと
言われていながら
結局もう8年にもなるんです。

むしろ感謝しなきゃ。

ま、この悪運もそろそろ尽きようと
しているようですが。

【毒術師サディーヤ】
オルフェウスさん・・・

【オルフェウス】
でも、この人生には満足しています。
皆さんと出逢えて本当に良かった。
特に○○さんとは・・・

ま、本人の前では
死んでも言いませんけどね、
彼が図に乗ると面倒ですから。

【毒術師サディーヤ】
本当に変わりませんね、
オルフェウスさん。

いえ、今はイレニウスさんでしたね。

【オルフェウス】
オルフェウスでいいですよ。

『イレニア人の父』だなんて
小恥ずかしい名前、
まったく誰が付けたのか・・・

【毒術師サディーヤ】
クムランさんやファトゥムさんも
驚いていましたよ。

あのオルフェウスさんが
いまや一国の元首なのですから。

【オルフェウス】
ええ、自分でも驚いています。
いつの間にこんなことに
なっちゃったのかって。

初めは不愉快な貴族達を
ストレス発散のために
イジめてただけなんですけどね。

それがいつの間にか
民衆の英雄になっちゃって。
あれよあれよという間に
1つの勢力になってしまった・・・

まぁ、ぼくの美しさが
民衆の、特に女性達のハートを
有無を言わさず掴んで
しまったことは否定しませんが、

今の身分はいささか窮屈ですね。
ま、もうじき
普通の人に戻りますけど。

【毒術師サディーヤ】
元首の座を降りるのですか?

【オルフェウス】
ええ。
もう支え無しでは立つことすら
出来ませんから。

それに、死んだ後に
後継者争いが起こるのも
避けた方がいいですし。

特に、あのブ男を担ぎ出す人間が
出てくると厄介ですからね。

あの男は、顔が少々不細工なだけで
人間としては申し分ないんですが、
政治の裏の世界を舞台に活躍するには
少し人が良すぎるんですよ。

貴族相手の数々の大活躍のおかげで、
今は彼も民衆の英雄ですが、
平和になった時に彼が頭だと
必ず誰かに騙される・・・

毒を盛られてお終いでは
彼も可哀想ですしね。

だからこそ、ぼくが生きている間に
次の元首を選んでおかないと。

【毒術師サディーヤ】
あなたは優しい人ですね・・・

【オルフェウス】
いえ、残酷な男ですよ。

彼を利用するだけ利用して、
美味しいところだけ食べて、
先に死んじゃうんですから。

【毒術師サディーヤ】
いえ、あなたは優しい人ですよ。

【オルフェウス】
いえ・・・
もしぼくが優しいとすれば・・・

相手が○○さんだからですよ・・・




その2ヶ月後、
イレニウスは国名をイレニア共和国と改め、
次の元首を選挙で選んだ。

そして、その1ヶ月後、
イレニア共和国の祖イレニウスはこの世を去る。

また、イレニウスの右腕として活躍した男の記録も
その日を境に途絶える。

イレニア共和国は、イレニウスの死後110年間
イレニア島の第一勢力の座を死守した。
「黄昏の時代」において、
1つの国家が1世紀以上も存続すること自体
非常に珍しいことであった。

イレニアの英雄イレニウスの墓は、
共和国の首都を見下ろす丘の上に立てられた。

また、それと同じ日、
ある小さな港町を見下ろす小さな丘の上に
質素な墓が立てられた。

その墓にはこう書かれていた・・・

イレニアの商人の子ディオ=ニュソス
オルフェウスとしてここに眠る、と。




FIN


   ・INDEX


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